(以下の文章は2020年11月から2021年5月までの間、ブログに掲載したものをまとめたものです。)
私ごとではありますが、この業界に入り20年が経ちました。あっという間の20年でした。そこでこの20年間の学びを振り返ってみようと思います。個人的な事柄から医学的なこと、治療についての話まで、しばらくの間このブログに連載していきますので、宜しくお願いいたします。
私がこの仕事を志したのは、学生時代から「少林寺拳法」をやっていたことがきっかけとなっています。「少林寺拳法」の技には、剛法(突き・蹴りなどの打撃系の攻撃と、それに対する防御法)、柔法(投げ技・抜き技・関節技・絞め技など)、整法(体を整える技術)の3つがあるとされています。しかし実際の稽古では整法を行うことはほとんど無く、また出来る人もあまりいませんでした。これらの整法にあたるものは、その他の古武術などでもよくみられるものです。しかし、これらの技術を教えたり実践してしまうと、「医師法」や「柔道整復師法」の法律に触れる部分があるとの事で、少林寺拳法のような全国に普及している武道の中で公に行うことが困難という事情がありました。
それなら自分で学ぶしかないと思い、2001年にカイロプラクティックの学校に入学することにしました。学校名は「日本カイロプラクティックカレッジ」、東京都新宿区信濃町にあった学校です。この学校を選んだ理由は、いろいろ調べた結果当時のカイロの学校の中では一番レベルが高かったからです。講師陣も医学部の先生方が多く、やるからには一番を目指すつもりでこの学校に入学いたしました。以前は授業も英語で、内容もかなり難しく卒業出来ない人もいたらしいのですが、私が入学した時は授業も日本語だったので助かりました。それでも解剖学や生理学などは今考えてもかなりレベルが高かったように思えます。
入学してしばらくは週に何回か、当時銀座で開業されていた学長先生(須藤清次D.C.)の治療院で研修もさせていただきました。今は閉校してしまいましたが、ここで必死に学んだ2年間は私の治療家としての基礎を作ってくれました。
~12回連載・②に続く~
カイロプラクティックの学校で学びながら、学校の卒業生で開業されている先生や評判の良い先生にお願いをして、治療見学や研修を受けたりもしました。また、気になる先生や治療院には患者として自ら予約を取り、実際に治療を受けてみたりもしました。卒業後もお金はいらないから修行させてもらいたいと、カイロプラクティックの治療院で修業時代を過ごしました。アルバイトをしながら空いた時間で研修に行っていました。おそらく10件近くは見学や研修に行ったと思います。
また、カイロプラクティックには多くのテクニック(治療法)が存在し、それぞれ一長一短なところがあることもわかってきました。実際本場アメリカのカイロプラクターも最低2つ~3つのテクニックを使用しているのが当たり前で、1つのテクニックだけという方は少ないようです。私もあらゆるカイロプラクティックテクニックの専門書を購入し、色々なテクニックの理論や考え方を学びました。実際に学校での実技では「ディバーシファイドテクニック」と「アクティベーターメソッドカイロプラクティックテクニック」の2つをメインに学びました。
「ディバーシファイドテクニック」とは一般的に皆さんが想像しているカイロプラクティックのテクニックだと思います。ただこの「ディバーシファイドテクニック」、きちんと習得するには何年も修業しなければ身に付けることが出来ないほど大変高度なテクニックです。カイロを習ったことの無い人がただボキボキさせて「カイロプラクティック」と言っている人がたまにいますが、そんな簡単には身に付きません。見ただけできちんと学んだ人かそうでない人かはすぐに分かります。アメリカの大学でも、何年もかけて習得します。
本当のテクニックは脊柱や骨盤の動きの悪くなっている関節1か所を、ピンポイントで最小限の負荷で正確に矯正できなければなりません。また、矯正ポイントとなる動きの悪い背骨や骨盤の関節を見つけるには、大変高度な触診能力が必要となります。「スタティックパルペーション(静的触診)」と「モーションパルペーション(動的触診)」の2つが出来なければ、矯正ポイントすら分かりません。このテクニックを正しく習得するのは本当に大変でしたが、それにより相当の触診能力が付いたと思います。
「アクティベーターメソッドカイロプラクティックテクニック」は、ディバーシファイドとは全く異なり、中枢神経系(脳と脊髄)を経由した反射を利用した独自の脚長差検査法により異常個所を検出、アクティベーターという特殊な矯正器具(骨に神経へ作用させやすい最も適した周波数の振動を発生させる)を使用して治療していきます。骨を動かすというより、中枢神経系に対し刺激を送り、体に治す力を呼び戻させるといった方が分かりやすいかもしれません。
~12回連載・③へ続く~
カイロプラクティックの修業時代には、あらゆる治療法も勉強していました。その中で出会ったのが「キネシオテーピング療法」です。キネシオテーピング療法を開発した方は有名なカイロプラクティックの先生(加瀬建造D.C.)で、キネシオテーピング療法はカイロプラクティックの治療から生まれた新しい治療法ということで興味がありました。
当時、私は少林寺拳法の関節技のし過ぎで肩関節を壊し、右腕が痛みで上がらなくなっていました。従来のカイロプラクティックの治療を受けていましたが、なかなか治らない状態でした。そんな時、キネシオテーピングの講座が開催されるとの情報を聞き、友人と早速入門講座を受講してきました。そして、見よう見まねで痛めているであろう筋肉に友人にお願いしてテープを貼ってもらった所、嘘のようにその場で腕が上がるようになりました。この経験が基となり、その後「キネシオテーピング療法」を深く勉強したいと思うようになりました。
その当時、東京都中野区沼袋に「自然カイロプラクティック学院」という加瀬建造先生が学長を務める学校があり、キネシオテーピング関係の講座はそこでよく行われていました。「キネシオテーピング療法」を学ぶため、沼袋には数えきれないくらい通いました。そして2004年の1月には指導員試験にも合格し、「キネシオテーピング指導員」の資格を取得いたしました。
カイロプラクティックを学び始め4年が経過した頃には、カイロのテクニックもそこそこ身についてきました。初めの頃は治療のメインはカイロプラクティックで、それで足りないものはキネシオテーピング療法を使うというスタイルで行っていました(しかしこのスタイルの治療では限界があることに後で気付きます)。
~12回連載・④に続く~
その後、紹介で整骨院で働くことになりました。そこではカイロの治療などは行ってはいませんでしたが、まだまだ勉強したいことがたくさんあったので、そこで勤務しながら稼いだお金をセミナーや勉強会などにつぎ込み、さらに治療の勉強と技術の向上を目指しました。
そこでお世話になった先生の紹介で、柔道整復師の学校「日本健康医療専門学校」(東京都台東区浅草橋)にも通うことができました。柔道整復師の資格を取得しようと考えた理由は2つです。
1、カイロプラクティックやキネシオテーピング療法だけでは、慢性の症状には強いが、骨折や脱臼、捻挫などのケガ(急性の症状)には対処が難しい。
2、今後の医療業界の事を考えると、国家資格が無いと色々な面で厳しくなると思われる。
1は、実際にカイロの治療院で患者さんが「今日転んで足を捻ってしまったので、ついでに見てもらえないか?」などと急性のケガをされて患部が腫れてしまっている患者さんが、たまに来院されることがありました。そのような経験から急性症状の治療の必要性を以前から感じており、急性・慢性全ての筋・骨格系(運動器系)の症状を見れなければならないと強く感じていました。そのためには「柔道整復師」の勉強はやはり必要だと思いました(骨折・脱臼・捻挫・打撲・挫傷に対する治療・施術は、医師・柔道整復師以外は法律的に業として行うことができません)。
2は、それまでは「しっかり勉強していれば資格なんて関係ない」と思っていましたが、日本という法治国家で生きていくには、きちんと法的に認められた国家資格を取得し、法の下で国のお墨付きで仕事をしていく方が余計なストレスもなく良いと思ったからです。実際どんなに勉強をしていても、医療系の国家資格を持っていないと社会的には「無資格者」という扱いとなり、医療関係者からは相手にもされないという現実があります。国家資格が無ければ参加できないセミナーや勉強会なども多いです。
また、柔道整復師は医療系国家資格の中でも特に骨・筋肉・関節の専門資格であることも取得しようと思った要因の1つです。
~12回連載・⑤に続く~
昼間は整骨院で働き、夜に柔道整復師の学校に通うという生活が始まりました。柔道整復師は国家資格なので、国の定めたカリキュラムに沿った勉強内容でした。学校では基礎医学(解剖学・生理学など)の総復習が行え、また、初めて学んだ「柔道整復学」は学科も実技も大変興味があり、かつとても勉強になりました。学校に通った3年間で今まで自分に足りなかった知識・技術をたくさん身に付けることができました。
3年間で学校を卒業し、柔道整復師の国家試験にも無事合格し免許を取得した後は、別の整骨院で1年間だけ勤務し、その後さらに経験を積むため都内の他の整骨院に5年間勤めました。
特にこの5年間勤務した整骨院では、骨折や捻挫などの外傷の患者も時々来院され、また最新式の「超音波画像観察装置」を導入されていたため、柔道整復師として大変貴重な経験を積むことができました。超音波画像観察装置とは、骨折はもちろん、レントゲンでは映らない筋肉や靭帯の損傷具合や炎症具合なども画像で見ることができる装置です。その整骨院では急性の症状(ケガなど)の患者も慢性の症状(健康保険外)の患者も、あらゆる患者さんが来院されていたので、柔道整復以外でもとても勉強になりました。
また、ここで働いている時にはそれまで以上にさまざまなセミナーや勉強会に参加し、さらに知識と技術を磨きました。雇われの身だったので学んだ技術を全て使うことはできませんでしたが、キネシオテーピングはある程度使うことができました。そこであらゆる患者さんにキネシオテーピングを施術し、臨床経験を「キネシオテーピング学術臨床大会」で発表させてもらいました。
そしてこの仕事を始めるきっかけなった「少林寺拳法」も復帰し、何とか「正拳士四段」を取得することができました。
~12回連載・⑥に続く~
もともとカイロプラクティックからこの業界に入り、10年以上が経過していました。その間ずっと疑問に思っていたことがありました。その疑問とは、
1、「カイロプラクティックでは体(特に背骨や骨盤)のゆがみや動きの悪い関節を矯正して治療するが、そもそもなぜ体はゆがむのか、なぜ背骨や骨盤の関節の動きが悪くなるのか」
2、「キネシオテーピング法を使うと目的の筋肉を最良の状態に回復させるので、機能が回復し症状も軽減させることができるが、同じように治療してもあまり効かない、もしくは効きにくいことがあるのはなぜか」
この2つの疑問はかなり前から解決出来ずにいました。
1の「体(背骨)はなぜゆがむか」に関しては、カイロプラクティックでは治療(矯正)のテクニックは多数あるのに、いくら調べても「なぜ」の答えがみつかりませんでした。どの専門書を読んでみても答えはありません。ガンステッドテクニック(ディバーシファイドと並ぶカイロの2大テクニックの1つ)のテキストには、「ゆがみがあれば何も考えずただそこだけを矯正すればよい」と書かれています。なぜそうなったかは言及しようとはしません。他のテクニックのテキストを読んでも、「なぜ」は書かれておらず、検査法と治療法だけで構成されているのがカイロプラクティックのテクニックです(S.O.Tテクニックやアクティベーターテクニック、内臓反射テクニック、オステオパシーなどでは中枢神経系の問題と解説されているものもありましたが、これらの説明ではあまりに抽象的すぎて決定打にはなりません)。それだど良くなる患者となかなか良くならない患者が出てくると思います。なぜそうなったか分からないわけなので。だからカイロプラクティックには多くのテクニック(治療法)ができているのではないかと思われます。
実際カイロプラクティックの治療をしていると、確かに背骨の関節を矯正して良くなる方はいますが、同じ患者さんは大体同じ個所にゆがみ(矯正する箇所)が発生しやすいのです。この「なぜ」が解決しないと、ずっと治療していないとまた戻るのではないかと思います。また、「なぜ背骨はゆがむか」の答えが分からなければ、自分自身何を治療して治そうとしているかもあいまいになってしまいます。
2の「キネシオテーピング法を正しく行っても効く場合と効きにくい場合があるのはぜか?」、実は1の疑問と2の疑問を突き詰めていくと、最終的には同じ所に答えが見えてくるのですが、その当時10年程度の経験ではまだ完全には分かりませんでした。
この2つの疑問が10年以上経っても解決できなかったため、カイロプラクティックの不十分さを感じるようになってきました。
~12回連載・⑦に続く~
カイロプラクティックの不十分さを感じるようになった時に出会ったのが、「マッケンジー法(Mechanical Diagnosis and Therapy:MDT)」という最新の治療法です。カイロの学生時代に専門書を購入し読んだことがあったので知ってはいましたが、本格的に勉強しようと思い「国際マッケンジー協会日本支部」の講習会に参加することにいたしました。
マッケンジー法はカイロプラクティックと同じく脊柱(背骨)や関節を対象とした力学的なアプローチを行う治療法ですが、カイロとは全く違った方法でのアプローチを行います。マッケンジー法の講習会は医療系有資格者しか受講できないため、ここでも柔道整復師の資格を取得し本当に良かったと思いました。様々なセミナーや勉強会に参加してきましたが、このマッケンジー法の講習会が一番大変だった気がします。受講生の半分以上は理学療法士や医師(整形外科医)で、その他は私のような柔道整復師や他の医療有資格者でした。内容もかなりハードで覚えることが多く、事前に予習をしてから来るようにと言われたのは初めてでした。
「マッケンジー法」は体の症状の原因を力学的動作分析・検査により探り、主に脊椎(背骨)や椎間板の整復動作を行うことにより改善・維持・再発予防を行う治療法です。体幹部(腰・背中・頚)は背骨を対象としていますが、四肢の症状の場合は他の関節を対象とする場合もあります。この治療法は体の状態から改善させる方向(特に背骨)を見つけ出し、強制的に整復させていきます。やや乱暴な言い方ですが、強引に治してしまうというイメージです。外からの刺激(施術者による治療)では限界を感じる場合でも、患者自身で体の整復・維持が可能なため、再発予防にも最適と思われます。
マッケンジー法の講習会は「パートA」から「パートD」まであり、それぞれ4日間連続で朝早くから夜まで続きます。その他に「パートE」という四肢(手足)の応用コースもあります。「4日間朝から晩まで」ということは平日に休みを取って行かなければならず、毎回仕事の休みを取って受講してきました。なかなか大変だったのを覚えています。
全てを受講すると認定試験を受験することができます。この試験は筆記試験と実技試験から成り、それぞれ基準をクリアすると「Credentialed,MDT」という世界共通の国際マッケンジー協会認定セラピストの資格を取得できます。
ただこの試験は大変難しく、私も1回目の試験では合格することが出来ませんでした。筆記試験は合格点に達していましたが、実技試験で落としてしまいました。筆記と実技の両方をクリアしなければ合格とはならないのです。試験当日に他の受験者の方々と情報交換をいたしましたが、私が話した限りでは合格した方はいないようでした。中にはもう何回も受験されている方もいました。試験を受ける前にはこんなに難しい試験だとは思っていませんでしたので、まさかここに来て落ちるとは考えてもいませんでした。
2回目の試験に向けてもう一度学科の勉強と実技試験の練習会にも参加し、特に落とした実技をもう一度復習いたしました。おかげで2回目の認定試験には無事合格し、「Credentialed,MDT」の資格を取得することができました。
~12回連載・⑧に続く~
この業界に入り14年目、この年(2014年)に地元の北海道札幌市に戻り開業することにいたしました。まる13年間、東京という学ぶには最適な場所で学んできました。
勉強に終わりはありませんが、ここで一区切りつけても良いかなと思いました。自分でもある程度満足できるだけは勉強してきましたので。また、いくら学んでもいくら技術を身に付けても、雇われで勤務しているうちは使える技術が限られてしまいます。せっかく学んでもあまり使える場が無く、勉強すればするほど空しさだけを感じてしまいます。開業しなければ報われないのが我々の仕事なのです。
地元に戻り1年間は開業準備をして、2年目でようやく開業することができました。ただ、自分の知識や技術をフルに使える状態になると今まで以上に勉強したくなってしまい、結局は地元に戻ってからも(開業前から)以後6年に渡り2~3か月に1回のペースで東京へ勉強しに行くことになってしまいました(新型コロナウィルスの影響で帰郷7年目の去年は3回ほどしか行けませんでした)。
札幌に戻って来てからも、特に「キネシオ療法」の勉強会(東京)には継続して参加してきました。「キネシオ療法」とは「キネシオテーピング療法」を含む複数の治療体系の総称で、加瀬建造先生(カイロプラクティックの治療家でキネシオテーピング療法創始者)が独自に開発し臨床で行ってきた治療法をまとめたものです。いくつかの治療法がありますが、コンセプトは共通しています。そのコンセプトとは「空」・「動」・「冷」です。この各説明は大変長くなるのでここでは割愛させてもらいますが、それらを達成させるための治療法が「キネシオ療法」と呼ばれる各療法なのです。
「キネシオ療法」の中には「キネシオテーピング療法」「筋・筋膜スラッキング療法」「クライオセラピー」「マッスルユニットトレーニング」「オステアローザ」「筋膜アジャスト」のそれぞれの治療法があります。その中でも特に重要なものが「キネシオテーピング療法」と「筋・筋膜スラッキング療法」です。この2つは特に直接指導を受けながらでも習得に年数がかかるもので、見よう見まねでは絶対に出来ない大変高度な治療法です。
それまで勉強してきた「カイロプラクティック」も「柔道整復術」も「マッケンジー法」も、それぞれ奥が深く大変すばらしいものですが、一通り勉強しある程度技術を習得することが出来ればあとは臨床経験を積んでいくしかありません。「キネシオ療法」も経験を積まなければならないのは共通していますが、他の治療法と比べてもはるかに応用範囲が広く、また私が想像していたよりも物凄く奥が深すぎて、学んでも学んでも区切りというか終わりが見えません。この治療法を学び続けているうちに以前からの疑問であった、
1、「カイロプラクティックでは体(特に背骨や骨盤)のゆがみや動きの悪い関節を矯正して治療するが、そもそもなぜ体はゆがむのか、なぜ背骨や骨盤の関節の動きが悪くなるのか」
2、「キネシオテーピング法を使うと目的の筋肉を最良の状態に回復させるので、機能が回復し症状も軽減させることができるが、同じように治療してもあまり効かない、もしくは効きにくいことがあるのはなぜか」の答えが見えてきたのです。
(この答えに関してはあまり詳しく書いてしまうと大変な文章量になってしまい、誰も読まなくなってしまうので、次回以降なるべく簡潔に記載いたします。)
~12回連載・⑨に続く~
20年間この業界にいて、色々なことを学んできました。そしてずっと疑問であった答えが少しずつではありますが見えてきたように思えます。
2つあった疑問の1つ目、「カイロプラクティックでは体(特に背骨や骨盤)のゆがみや動きの悪い関節を矯正して治療するが、そもそもなぜ体はゆがむのか、なぜ背骨や骨盤の関節の動きが悪くなるのか」、その理由は大きく分けて3つあります(事故などの急な外力によるものは除きます)。
第1に、姿勢や体の使い方によるものです。これは左右のゆがみよりは前後のゆがみに影響することが多いです。日常生活での姿勢と運動でコントロールすることが可能な場合があります。一般的によく言われていることではありますが、ただこれだけで全てを説明するのは無理があります。
第2に、人間の脊柱(背骨)は年を取ると最終的にはほぼ同じ方向にゆがんでいく要素を持っているからです。人間の体は潜在的な「らせん構造」を持っています。心臓も血管も、そして人間の体を構成しているDNAもらせん構造です。実は背骨も潜在的ならせん構造に出来ていると言われています。なので年を取り体や背骨が委縮をしてくるとそのらせん構造が顕著に表れてきます。なので、高齢の方の加齢による背骨のゆがみは最終的に皆同じような形にゆがんできます。実際に人体標本を見るとほぼ同じ方向に背骨が曲がっていることが確認できます。
このことは、高齢の方は必ずしも背骨のゆがみが全く無いのが正常とは言い切れないことを表しています。許容範囲内に治め、症状を出さなければ健康体と言えます。ただこの説明でも、高齢者ではない場合の説明ができません。
上記の第1と第2の理由は、私自身学生の時から学んで分かっていたことでしたが、それだけでは説明がつかないことが多く、3つ目に気付いた時ようやく納得いたしました。
カイロプラクティックなどの手技療法・自然療法ではしばしば脊柱(背骨)を中心に考えがちです。確かに人間をコントロールしているのは中枢神経系(脳と脊髄)なので、それらを格納している背骨は一番重要なのは間違いありません。ですが、「なぜ体がゆがむのか」を考えた時は、背骨を中心に考えることは正しいとは言えません。背骨を中心に考えてしまうから「なぜゆがむか」が分からなくなるのです。
第3の理由は、そもそも人間の体の重心線(重力が正しくかかる線)は背骨には無く、胸骨(胸の前の骨)のやや後ろ側を通ります。つまり、人間は背骨に重心がきて重力に対し支えているわけではないのです(背骨に重心がきてしまい背骨で支えてしまうと、腰痛や椎間板ヘルニアになります)。なので、ゆがむ原因は背骨そのものの問題ではなく他の影響で結果的に背骨のゆがみを作ってしまうのです。
その原因とは重心線が通る胸郭、つまり肋骨側の影響によります。胸郭(肋骨)に不均等な圧力がかかることにより、力を逃がすために結果として背骨がゆがんでいくのです。では肋骨をゆがめる原因とは何か?それは、内臓などの臓器からの不必要な圧力です。胸郭(肋骨)の中には多くの内臓が収まっていますが、そこには余計な隙間はありません。内臓をコントロールしている自律神経の乱れやその他の要因により、臓器に血液やリンパが集まり内圧が上昇すると肋骨を押し上げ、結果として背骨にゆがみを作ります。また、内臓の圧力は肋骨だけではなく、下にかかれば骨盤をゆがめます。骨盤全体の傾き(ゆがみ)だけではなく、左右の不均衡も発生させます。直接の下方への圧力だけではなく、胸郭(肋骨)内の不均衡による重心バランスの崩れから骨盤のゆがみを作る場合もあります。
その胸郭(肋骨)や背骨、骨盤がゆがんだ状態のところに重力がかかっていくと本来の正しい所に力がかからず、かかってはいけないところに力が多くかかります。その結果、ゆがみが大きくなり筋肉や関節に負担がかかり痛みや障害、変形などが起きてくるのです。
つまり、人間のゆがみを作るものは、「自律神経」と「重力」の2つなのです。
~12回連載・⑩に続く~
もう一つの疑問である、「キネシオテーピング法を使うと目的の筋肉を最良の状態に回復させるので、機能が回復し症状も軽減させることができるが、同じように治療してもあまり効かない、もしくは効きにくいことがあるのはなぜか」についても、前回の「なぜ体(背骨や骨盤)はゆがむのか、なぜ背骨や骨盤の関節の動きが悪くなるのか」の答えと同じことに気が付きました。
通常キネシオテーピング法を筋肉に対して行うと目標の筋肉はすぐに回復します。しかし、その筋肉を弱めたり異常な状態にしているものの原因が別であれば、その原因を取り除かなければキネシオテーピングが効きにくいことがあります。筋肉が本来の機能を発揮できない状態は筋肉そのものにある場合もありますが、原因は別で結果としてその筋肉を弱めてしまっている場合もあります。
その原因とは何か?原因を突き詰めていくと、内臓の圧力上昇や機能低下などにたどり着きます。内臓の圧力上昇により連結している筋膜や筋肉に影響を与え、さらにそれらの筋膜や筋肉に連動して症状の出ている筋肉に影響を出している場合があります。また、直接の連動ではなく臓器の機能低下などによる神経の反射により特定の筋肉の機能を弱めている場合もあることが分かってきました。
(※その他、①の疑問で取り上げた「体(背骨)のゆがみ」により脊髄神経の機能低下から支配領域の筋肉に影響して筋機能が低下している場合もあります。その場合、背骨のゆがみを治療すると一時的に筋肉の機能は回復しますが、背骨のゆがみを作る原因そのものを治療しないと何度治療してもまた戻っていきます。)
それらはまさに「自律神経」の作用であり、その状態(筋肉が弱くなったり十分機能を発揮できない状態)で重力がかかった場合、重力に対し本来の姿勢や機能を維持することが難しくなってきます。その状態で生活を続けることにより余計な負担が筋肉や関節にかかり、筋肉の機能をより低下させ、結果痛みや障害、変形などを発生させるのです。つまり、こちらも原因は「自律神経」と「重力」なのです。
以上、長年の2つの疑問に対する答えを簡潔に述べさせてもらいましたが、実際「自律神経」の体に対する影響はもっと複雑で、精神状態などによっても筋肉の緊張の変化が起きたり、背骨の硬さや柔らかさは変化します。
この「自律神経」と「重力」のそれぞれの影響が交差する場所に症状は現れます。これらの事に気付いてからは、原因不明の方や病院でなかなか治らなかった方でも治ることが多くなってきました。原因が分からない・何年も治らない・治ってもまた繰り返す方のほとんどは私から見ると大体原因があります。それらは「キネシオ的な見立て」によるものがほとんどです。
「キネシオ療法」の優れている所は、これらの「自律神経」と「重力」の両方を考慮して治療を行っていく点です。この2つを同時に解決させるのは、私の知る限り「キネシオ療法」しかないと思います。いろいろな治療法が世の中にはありますが、何か1つの目的に特化しているものがほとんどです。
「キネシオ療法」をさらに突き詰めていくと最終的には「五臓の色体表」(「黄帝内径素問」という東洋医学で最古と言われる医学書の中の体の変化・影響をまとめたもの)にまでたどり着いてしまいます(ただし東洋医学では「重力」という概念がありません)。
「キネシオテーピング療法」だけを学んでいた時には、「キネシオ療法」自体がそれだけ深いもので応用範囲も広いものだとは考えてもいませんでした。キネシオ療法、特に「キネシオテーピング療法」と「筋・筋膜スラッキング療法」は特に奥が深いので、未だに勉強を続けています。
~12回連載・⑪に続く~
この業界に入り勉強を始めて、20年以上が経過いたしました。様々な知識・技術の習得と臨床経験を積んできた結果、現在の治療スタイルとなっています。特に勉強だけではなく臨床経験(治療経験)を多く積まなければ、レベルアップはできません。「患者さんが一番の先生である」という有名な言葉がありますが、まさに患者さんに教わること、勉強になることは今でも本当に多いと思います。決して自分一人の努力で治療家としてやってこれたわけではなく、患者さん、職場の上司、セミナーなどで教えてくれた先生達、自分を支えてくれた家族など皆さんのおかげでここまで来られたと思います。本当に皆様には心から感謝しております。そして20年の経験から、現在は大まかに以下のスタイルで治療に当たっています。
○急性症状(骨折・脱臼・捻挫・打撲・筋損傷)は柔道整復の知識と技術を中心に対応いたします。それらの外傷に対する鑑別診断は、当院の得意とする所です。柔道整復術と補助的にキネシオテーピング療法を使って治療いたします。急性症状における柔道整復の施術は各種保険の対象となります。
○その他の慢性症状(原因不明の症状、ずっと治らない症状、治っても何度も再発する症状、他の医療機関では治らない症状など)は、通常キネシオ的な見立てから行い、「キネシオ療法」による治療を行うことにしています(「キネシオテーピング療法」「筋・筋膜スラッキング療法」「クライオセラピー」を中心に治療いたします)。ただし、症状により脊柱(背骨)や骨盤も矯正した方が良い場合があります。特に上部頚椎(頭蓋骨・第1頚椎・第2頚椎)と仙腸関節・腰仙関節(骨盤の各関節)は影響が大きいため、カイロプラクティックテクニックによる治療を行う場合があります(上記の関節部位は矯正した方が早い場合もあります)。
○患者の症状や状態、特に背骨の前後の弯曲が大きく崩れていて(不正列を起こしていて)整復が必要な場合、あるいは患者自身が希望される場合は最初からマッケンジー法を行う場合もあります。特に整復が必要と思われる「椎間板ヘルニア」や「ストレートネック」などは、マッケンジー法をお勧めする場合があります。また生活習慣による影響が大きい方の場合、いくら治療して良い状態に戻しても維持が困難な場合があります。その場合は「マッケンジー法」に切り替え、再評価・施術を行う場合があります(「マッケンジー法」を行う場合は原則他の治療とは併用ができませんので、「マッケンジー法」のみに切り替えます)。
~12回連載・⑫に続く~
私ごとではありますが、この20年間の治療家としての学びを振り返ってみました。12回に渡り掲載してきたこの内容も、今回で最後となりました。お読みになってくれた方には心より感謝を申し上げます。
最後にこの20年で参加したセミナーや勉強会、学術大会などを列挙してみたいと思います。全ては無理かもしれませんが、覚えている範囲で載せてみたいと思います。
<今まで参加したセミナー・勉強会・学術大会等>
(2022年10月現在)
・外傷性疾患 整復、固定、後療法セミナー(全シリーズ)
・柔道整復における急性腰痛整復法セミナー
・北海道柔道整復師会 認定スポーツトレーナー講習会
・北海道柔道整復師会 認定スポーツトレーナーフォローアップ講習会
・北海道柔道整復師会 札幌ブロック研修会(年に数回参加)
・機能訓練指導員 認定柔道整復師講習会
・匠の技伝承プロジェクト 柔道整復術実技講習会
・日本柔道整復師会 北海道学術大会 参加(毎年)
・日本柔道整復接骨医学会 学術大会 参加
・中川貴雄D.C.カイロプラクティック勉強会(複数回)
・小倉毅D.C.テクニックセミナー(複数回)
・小柳誉D.C.シンクロ矯正法セミナー(複数回)
・ポジショナルリリースセラピーセミナー
・日本カイロプラクティック徒手医学会 学術大会 参加
・国際マッケンジー協会認定講座 全コース
パートA(腰椎基礎)
パートB(頚椎・胸椎基礎)
パートC(腰椎応用、下肢基礎)
パートD(頚椎・胸椎応用、上肢基礎)
パートE(四肢応用)
・Credentialed,MDTブラッシュアップセミナー
・マッケンジー法学術臨床発表会 参加
・キネシオテーピング認定講座 全コース
・キネシオテーピング指導員養成講座
・キネシオテーピング協会主催 筋スラッキング療法セミナー
・キネシオテーピング協会主催 クライオセラピーセミナー
・マッスルユニットトレーニングセミナー(全シリーズ)
・キネシオテーピング協会 関東支部合宿研修会(複数回)
・筋スラッキング指導員養成講座
・キネシオ療法マスター認定講座 全コース
筋膜アジャスト講座
クライオセラピー/オステアローザ講座
マッスルユニットトレーニング講座
DKT臨床編①
DKT臨床編②
DKT臨床編③
キネシオ療法マスター養成講座
・加瀬建造D.C.セミナー、勉強会 多数参加
・髙倉昌宏D.C.顎関節と頚椎の治療セミナー
・ハロー臨床セミナー(2年に渡り参加)
・入門筋スラッキング療法セミナー
・部位別(筋肉別)筋スラッキング療法セミナー
・臨床筋スラッキング療法セミナー(全シリーズ)
・筋スラッキング療法 スーパートレーニング(全シリーズ)
・マニアのための筋スラッキング療法セミナー(全シリーズ)
・筋スラッキング療法エクストリーマーズセミナー(全シリーズ)
・最強の見立てゼミナール
・キネシオテーピング学術臨床大会 参加(毎年)
・キネシオテーピング療法学会 学術大会 参加
・OCSセミナー(姿勢から見たアプローチ)
・礒谷式力学療法セミナー
・ストレッチポールセミナー
・ニチバン スポーツテーピングセミナー
・クボタ式耳つぼ痩身法セミナー
・スーパーライザーセミナー
・足心道セミナー
~学術大会での発表~
第24回キネシオテーピング学術臨床大会 発表
演題「胸腰筋膜テープの臨床応用例」
第27回キネシオテーピング学術臨床大会 発表
演題「KTスクリーニングテストを使った臨床報告」
第31回キネシオテーピング学術臨床大会 発表
演題「KTスクリーニングテストを使った臨床報告②」
第33回キネシオテーピング学術臨床大会 発表
演題「足底横隔膜テープ」
これからも30年、40年と迎えられるよう日々努力していきたいと思いますので、宜しくお願いいたします。
~12回連載・最終回~
※2024年11月現在
第32回キネシオテーピング国際シンポジウム 発表
演題「脊柱の歪みとキネシオ療法」脊柱支柱否定論の可視化
第38回キネシオテーピング学術臨床大会 発表
演題「こんな所に原因が・頚部痛編」痛みの原因を探る